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普段は気づけないこと

朝から
体調が優れなかった。

家事を終え
お部屋を整えたが 
だるさがある。

夕方のレッスンの為に、
ゆっくり横になることを選ぶ。


夕方のレッスンは
気付かれずにすんだ様子。


少し空きがあり、
その時に、
最後の大人の生徒さんから
電話がかかってきた。


「仕事が立て込んで終わらず、
  まだ、かかりそうなのです。
  ごめんなさい。
  もし宜しければ
  来週に替えて頂けないでしょうか。」

「お疲れ様!大丈夫よ!
   お仕事頑張って!」

「すみません。ありがとうございます。」



この時に感じた。
今の体調の感じは
休ませてもらった方が良いな。
今日はもうレッスンが出来ないな、
と。


もうひとりの生徒さんに電話をかけた。

仕事を終えてから来る生徒さん。

事情をお話した。

「先生、大丈夫ですか? 
    わかりました。」

「ごめんなさいね。
   大丈夫。横になって休めば
   良くなると思う。 
   振替は5週目にさせてくれない? 」
 
「わかりました。」

こんなやりとりの中で、
彼女はなにか、
すっきりしていない感が感じとれた。

「なにか心配あるかな?」 
 と聞く。 

すると
「楽しみにしていたんです。
   だから残念だなあ、って。」



わたしは瞬間、涙が出そうになった。  

おもわず答えた。

「弾きにおいで!
   私は休んでいるけれど、
   めいいっぱい時間だけ弾いていって!」

 「本当ですか?辛くないですか?」
 

「構わないよ。
   あなたの 弾きたい!って思う
   気持ち。うれしい!
   その嬉しさには何もかなわない!
   いらっしゃって!
   ひとりで向き合っていって!」




隣の部屋で
ゆっくりしながら
彼女のピアノを聴いていた。


シューマンのト短調のソナタ。

テクニック的にも表現も高度だ。
 
何度も何度も
チャレンジするように弾く。

今は
通して全体像を感じ取って深める
時期なのだ。


24にして経営者である多忙な彼女の、
何がこんなに夢中にさせるのだろうか。

ふと、思う。
主婦の生徒さんも
中学生も
忙しくても夢中になって弾く。

おチビちゃんも小学生も。




音楽は愛そのもの。
ピアノを弾くことは愛に浸ること。


これが
生徒さん達の立ち位置なのだ。



ありのままで
ピアノと相対し、
響きあう姿。




だるさがある身体。

しかし
夢中で弾くエネルギーに満ちる音は
疲れている部分をノックし
癒していくように
染み入ってきた。



感謝に満たされた。


「帰ります。
   本当にありがとうございました。
   家のピアノとは違います。
   楽しかったです。
   無理言ってすみませんでした。
   先生、
   何かあったら電話くださいね。
   近くにいますから。」


仕事を終え、
ピアノに向き合い、
晴ればれした表情。

そして
彼女の本質からのやさしさに
こころ潤う。








体調の悪さもめぐみだ。

普段気づけない 
美しさに気付かせてもらえる。

ひとには弱さもある。

その弱さがあるから
弱さを包む愛を知るのだ。